国際交流部よりExchange activity

変わりゆくものと変えてはならないもの

IBO(国際バカロレア機構、本部ジュネーブ)から国際バカロレアMYP・DP一貫教育校として2020年度に認定され、朝日塾中等教育学校の学びは変わった。
特に、国際的に認められる大学入学資格であるディプロマ資格をめざしてDPコースで学ぶ生徒達の学びは、大きく変わった。

 001

机上だけの勉強が教室外へ飛び出し、自ら問い続けるようになった。
別の言い方をすれば、学習と遊びの境界があいまいになり始めた。

002 

たとえば、「地理」のフィールドワークで調査して得られた御津金川地域の店舗の減少、空き家の増加、高齢化の実態等に関する結果に関して授業内で分析するだけではなく課外時間、「御津を活性化するために高校生には何ができるだろうか」と模索する生徒の姿が見られるようになった。

御津公民館を橋渡し役に岡山御津高校の生徒達とともに立ち上げた「みつ元気プロジェクト」で活動する中で、他地域にはない御津地域独自の魅力を掘り起こす必要性に駆られ、みつ文化協会の海野氏に御津郷土歴史資料館でインタビューし、明治最初の外交問題「神戸事件」を身一つでおさめた御津金川出身のラストサムライ 瀧善三郎に着目し始めた。

 003

「歴史」の授業で学んだ文献の価値と限界を見極める手法で国内外の文献を比較検討し、岡山の歴史・文化研究フォーラムで県知事賞を受賞した。
受賞をきっかけに、瀧善三郎のひ孫である瀧正敏様を取材し、その歴史を発信されている一般社団法人「歴史新大陸」の後藤代表らに出会う機会を得て、価値ある歴史を多くの方々に知って頂くためにともに「七曲七夕みたま祭り」をゼロから企画・運営。
455年ぶりに御津金川に七夕を復活させることに成功した。

004 005

さらに、学びの変化は思いがけぬ別のチャンスをもたらした。

七曲七夕みたま祭りの復活に向けて取り組む生徒達に心を動かされた安信政裕社長(安信工業株式会社)が「日本人生も留学生も朝日塾生、本当によくがんばった。好きだから」と「Neo狂言 ポルチーニ」に無料招待して下さったのだ。

006

RSK・能楽堂ホールtenjin9で7月23日(日)に開催されたネオ狂言「ポルチーニ」。
パンフレット配布や募金のお手伝いをさせていただいた後、室町時代からの庶民のお笑いである「狂言」を楽しく体感させて頂いた。

007 

狂言師・小笠原由祠(おがさわら ただし)氏が狂言の前に観衆にして下さった狂言に関する説明は、留学生だけではなく、引率教員にも勉強になる内容だった。

008

室町時代に大成された能と狂言。
すり足などは一緒だが、似ているけれど異なるもの。

能は、ミュージカルのようで貴族的な悲劇であるのに対して、狂言は、対話を中心に庶民を楽しませる喜劇。

安土桃山時代、天下人となった織田信長、豊臣秀吉、徳川家康も狂言を好み、秀吉などは明智光秀を討ったことを題材にした狂言を自ら演じたともいわれる。

ところが江戸時代、侍が能を好み始めると、能に狂言はその座を奪われることになった。

ただ、文語体でなされる能に比べて、話し言葉でなされる狂言は誰にもわかりやすく、楽しいものだと小笠原氏は楽しげに話す。

 009

そのような狂言のルーツから、ネオ狂言は生まれたという。

「ネオ」はイタリア語で「新しい」という意味。
「ポルチーニ」は同じくイタリア語で「松茸」という意味。

ヴェネツィア大学で教えた小笠原氏の経験がネオ狂言「ポルチーニ」を生み出した。

 010

バカボンのパパやアッコちゃんらが登場するネオ狂言「ポルチーニ」も狂言「蝸牛(かぎゅう)」も、狂言の舞台装置は全く変わらない。
一般的な演劇と異なり、観る者の想像力をかきたて、観る者が想像力を働かせて楽しむ。

「何もないから自由な発想をかき立てる」。
「何もないからイメージできる」。

狂言師・小笠原由祠(おがさわら ただし)氏が狂言される前に発せられたその言葉は、初めて鑑賞した留学生を混乱させたが、鑑賞後、得心したという。

「何もなくても何か見えてくる。それが日本文化か…」

鑑賞後、ぽつりと留学生がつぶやいた。

 011

コロナ禍中、ICT機器が教育機関にも普及し、ICT機器を活用したリサーチや振り返り、共同作業が可能になり、教育現場は様変わりした。
朝日塾中等教育学校の学びも、IBワールドスクールへの仲間入りと相まって、大きく変わった。
生徒達の学びの変化がもたらしてくれた狂言の観賞は、どんなに社会が変化しようとも、時代を超えて変わらない、変えてはならない「不易」とは何か、時代の変化にともない変えていく必要がある「流行」とは何か、私に考えさせた。

最後に、貴重な機会を与えて下さった安信政裕社長(安信工業株式会社)はじめ関係者の皆さま、ありがとうございました。

(国際交流部長 杉原大輔)